こたろうの話

格好良い言葉を使いたくないし、言語化すると嘘になってしまいそうで、本当に嫌なのですが、それでも、喪失感が酷すぎて、言葉で埋めるしか私は、今、私の輪郭を保つ方法を知らないので、書きます
我が儘で、こたろうについて、ここにずっと書かせてもらってて、申し訳ないです
あと、ほんの少し、少しだけ、悲しいだけで一杯にならせてください

こういう事態の最中で、もう何も書けなくなるんじゃないか?と不安になったのですが、私はどうにもこうにも、書く事と一緒に生きてきた人間で、極限の精神状態の最中でも、生まれてくるのは言葉ばっかりで、本当に自分の人間性の薄っぺらさに戦慄を覚えるのですが、そういう人間と一緒に暮していて、こたろうは幸せだったんだろうか?とか色々考え出すと、また、深く落ち込んでしまって、この穴の底が、何処にあるのか見極めのきかない状況です

泣いてんのも、悲しんでるのも、全部自分のためだって分かってて、本人はね、案外ね、ケロっとね、とっとと、天国とかいってしまってね、私が大泣きしてる事なんか、全然知らない顔で、痛い事も、つらい事もない場所にいてくれたら、それが一番良いなって、心から思ってます

こういう話がお嫌いな人もいらっしゃいますでしょうから、以下は畳みます






私が、20の時に、弟が貰ってきた子でした
たろうという犬の子だから、こたろう
ものっそい単純な名前は、弟がつけて、「こた」という呼び方を私が定着させました
耳が、貰ってきたばかりの時は折れ曲がってて、眉がぽしょぽしょしてて、垂れてて、情けない顔をしていて、犬が嫌いだった母ですら、初めてみた瞬間から夢中になったし、私はあんまり可愛くて、可愛くて、こんな子と一緒に暮せるなんて…って考えるだけで舞い上がって大変でした
吼えない子で、噛まない子でした
他の犬を見ると甘えた声で鳴いて擦り寄ろうとするし、散歩の時の歩き方はあっちにいったり、こっちにいったり、左右にブレて、ブレて、誰が見ても「ああ、こたろうちゃん」って分かるような独特の歩き方をしていました
凄くげんきんで、私たちがご飯を食べている時に、おこぼれを強請って足元に擦り寄ってくる時の顔が、最高に可愛い子でした

構われるのが余り好きじゃなくて、特に抱っこを嫌がりました
私が抱き上げるのがダイスキで、中型犬というより、もう、大型犬じゃないかな?という範疇になっても、私は無理矢理のように抱き上げては、頬ずりをして、首に手を廻して椅子の上で、ずっとその体を揺らしていました
逆に、こたろうはお腹を見せて撫でさせるのが好きで、私の顔を見ては仰向けになり、手を伸ばすまでじっと私の顔を見上げていました
頭の毛がほわほわしてて、胸の毛が真っ白で、鼻と口の周りの毛が黒くて、体は茶色で、鼻が短くて、チャウチャウの血が多分混じってて、何時まで経っても幼い顔をしていました

ちょっと笑うんです
錯覚だろうけど

口がきゅって開いて、にこにこと
こたろうは、嬉しい時に笑うんです
家族が帰って来た時とか、美味しいものが貰えそうな時に

私が晩御飯を毎日あげていたので、私が帰って来ると纏わりついて、ごはんをあげるまで離れませんでした

私もまず、一番にこたの顔を見に、帰ると彼の住処である台所へと駆け込んでました
だから、今も、椅子に座ってて風が足首を撫でると「こたろう?」って思う
浴室で部屋着に着替えてくると、私が散歩に連れてってくれると勘違いして、顔を覗かせた事を思い出すし、抱っこしようとすると抵抗して仰向けになって足をばたつかせた事も、全部全部、思い出す
旅行に行っても、ずっとこたろうの事を考えていた私なので、一生思うんだろうと思います

7年に少し足りない6年強

ずっと一緒でした
一緒に暮してきた
あんなに可愛い子は知らない

特別でした
多分ね、どんな犬だって、飼ってる人からすれば特別の犬だろうけど、私のこたろうは、本当に特別でした

100匹に1匹…いえ、150匹に1匹だったそうです

血がね、凄くね、悪かったんです
獣医さんも初めて見たって
代謝が下手な血だったんです
手術なんて、開腹した瞬間、ショックで死んじゃう位の、特殊な、特別な、良くない血の子だったんです

寿命だって言われました
飼い方が悪かったんじゃないよって
ここまで、この子は精一杯生きて、生きて、生ききったんだよって
私は見れなかったけど、獣医さんが、これからの犬達の為に、お腹を開いて、見せて欲しいってお願いしてきて、うんって言いました
こたろうも許してくれるだろうって思って

内臓が、全部腫れてて、酷い、酷い状態だったそうです
あの子は、ずっと、そういう、体で、頑張って生きてきたんです
そして、これからの子達の為になるんです
最高です
最高の、私の最高の、大事な弟です

あんまり、こういう場所に書かないでおこうと思っていた言葉だけど、最期なので

天才だと思います
うちのこたろうは、最高の天才犬です
待てもあんまり上手に出来なかったし、決して美形じゃなかったけど、最高の天才です
一つも手の掛からない子でした

あやのちゃんも言ってくれたけど、私が旅行に出るまで待って病気になって、私が帰ってくるまで生きててくれた
最高のかけがいのない、私の相棒

死ぬ前に、部屋を全部回って、家族に挨拶して、妹の膝の上で痛みに耐えて、弟に我が儘を言って、私には、朦朧とした意識の中でお腹を撫でさせてくれた
どの人からも「大人しい良い子」って言われました
気難しい犬にも、好かれました

こんな犬はいません
私には最初で、最後の最高の犬です

家から帰って玄関で待っていた母に「駄目だった」と言われた時、何を言われてるのかわからなくて、膝から力が抜けて動けなくなりました
叫ぶみたいな声しか出なかった
いやだとか、うそだとか、ちがうとか、覚えてないけど、半狂乱ってああいう事を言うのだと思います
私の声が家中に響いて、耳に届くのを不思議な気持ちで聞いてました
30分くらい、玄関で立ち上がれなかった
ドアに背中を預けて座り込んだまま、悲鳴をあげていました

「帰ってきてるから、顔をみてあげて」と言われて、怖くて怖くてしょうがなかった
だって、動かないこた、見たくなくて、見たくなくて、見たくなくて、こたは私の顔を見たら、お腹を見せてくれるはずだから、尻尾を振ってくれるはずだから、だから、動かないこたは見れないって思いました
見れないって思ってたけど、知らないうちに立ち上がってて、知らないうちに玄関から家の中に上がって、知らないうちに、こたろうの眠ってる部屋に入って、こたろうがずっと愛用している毛布にくるまって、じっとしてて、また、悲鳴をあげました

6歳で
私は東京に遊びに行ってて
遊びに行く前は尻尾を振って、いってらっしゃいって見送ってくれてて
こたろうは、6歳で
私は、30半ばまでは一緒にいられるって思ってて
こたろうがいるから家を出られないなんて思って、思って、こたろうは、6歳で
一番苦しんでる姿を私に見せずに、こたろうは

嵐の夜に、こたろうは発病して、次の日の朝、逝ってしまった

9月1日です
一生忘れません
一生です

嵐がこたろうを連れてってしまったって思ってます

もっと、面倒を掛けてくれてよかったのにね
もっと、私を振り回してくれればよかったのにね
私はまだ、さようならも言えないし
まだ、何も諦めだってつかない

線香のにおいが立ち込める、クーラーのきいた部屋で、それから私は動かなくなりました
トイレに行く時だけで、あとは、ずっとこたろうの傍にいました
次の日は火葬場に連れて行かれるって知ってたから、一秒だって離れたくなかった
お風呂も、ご飯も、自分が生きてる人間で生活のうえでしなきゃいけない事を、自分が出来るだなんて思えなかった
線香を、ずっと灯し続けようと思って
30分毎に消える線香を交換し続けました

家族みんなが泣きつかれて、動けないみたいな状態で、私がずっと、傍にいさせて貰いました
弟が、「傍におってくれるんか?」って聞くので頷けば「逝くとき、病院で一人だったから、よかったな、こたろう」って言って泣きました
妹は、「ばいばい、ばいばい」って言って、こたろうの体を撫でながら泣きました
母は、一番面倒を見ていたので、多分一番辛かったろうと思います
父も、とても可愛がっていたので、今日の火葬場にも仕事を休んで付き合ってくれました

私は、一晩中こたの隣で、じっとしていました
こたの手を握ってじっとしていました
今にも動き出しそうで、でも、こたのお腹は、裂かれた真っ赤な痕が残っていて、それを見ては声をあげて泣きました

どうして、こたろうだったのか?って思います
150匹に一匹なんて、特別な犬に、どうしてこたろうが生まれてしまったのか

優しい子だったんです
健気だったんです
可愛い、私の、大事な、大事なこたろうだったんです

穏やかで、大人しい、静かな、悪意のない、誰に憎まれる事もない、そういう犬でした

どうしてですかね?
どうしてなんだろう
7歳になる前に、どうして

分からないんです
全然
分からない
自分の、父親よりも、母親よりも先に逝ってしまって

呑気な顔をして
呑気な家族の中で

そんな、特別なんて、全然いらなかった

別に、スター犬じゃなくていいんです
何処にでもいる普通の犬だって思ってたんです
私達だけの特別だったんです

先の犬の為になんてなってくれなくて良いんです
もっと、一緒にいたかったんです
私は、もっとおばさんになって、ずっとこたが一緒にいる未来しか考えてなかったんです

しんどいです
しんどいです
こんなにつらい事は生まれて初めてです
これ以上の辛い事はもう耐えられないと思います

多分昨日私は少し頭がおかしかった
動けなくなって、コタの手を握ったまま、私はこたの夢を見ようとしていた
おばけがいるなら、会いにこない筈がないと思ってた
夜中何度も何度も、こたろうの名前を呼んでいた
こたーって、こた、寂しいようって
会いたいようって

そんで、私はこたの傍らで少し転寝したんです
意識がなくなった時が確かにあった


あーー…まー…そこで、ね、夢になんてね、都合よく出てこないのがコタなんですけどねー…


もうね、確信した

あー、逝ったな…と
ここには、まじで、こたの抜け殻しなねぇんだな…と
こりゃ、私がここで大泣きして、頭おかしくなってんのなんか、全然知らん顔で、天国もう逝ったなって
もうね! 私が死んで、会いにいっても、これ、私の事忘れてんじゃねぇの?って位の潔さ

だって、普通、隣で寝てて、最後の夜で、手とか握ってんのに、夢に位、出てきてくれてもいーのにねー!
うちのばあちゃんは出てきてくれたっつうの!!
霊感、100%ゼロの私ですら、ちゃんと夢に見れたっつうの!

んで、そういうこたが、こただなって思いました

げんきんで、ほんと、情緒なんてないの、こたろうは
いっつもそう!! 
だから、今頃は、上でこっちの事知らない感じで楽しくやってると思います
私幽霊怖い人だけど、全然会いに来てくれていいんだけどなー!
来ないだろうなー、あいつは!!

んで、翌朝、目が腫れすぎて開かなくなって、体中線香くさいは、風呂入ってないから体中ベタベタで、クーラーと線香の煙で喉は壊滅的で、精神的にも仕事行ける状態じゃなくて休んで、焼き場まで行って、今は、小さな骨壷の中で、一番彼が過ごした台所に奉られています
骨を見るとね、また、駄目で、どうして、どうしてばっかり思うし、やっぱり、泣き言で、「逝かないで」って今でも思うんですけどね、本当に不思議な感じで、波みたいに、引いて、寄せての繰り返しで、冷静でいれる時と、涙がとまらなくなる時とが、交互に訪れています
多分、この先も、ずっとこうなんだろうと思います

ただ、波が穏やかになってて、もっと、落ち着いてこたろうの事を思い出すようになれる日が、時がくれば来るのだろうとは思っています

さよならは、やっぱりまだ言えません
折に触れ、諦めきれずに会いたいと願うのでしょう

本当に、大好きでした
大好きでした

私の家に来てくれてありがとう
会えてよかった
こたろうも、うちに来て良かったと思ってくれてたら、一番嬉しいです

もっと、ずっと一緒に生きたかったけど、どうにも、うちのこたろうは、可愛過ぎてしまったみたいで、神様に早くに貰われていってしまったので、私も、いつかは、こたろうのトコへ逝けるよう、ちょっと気合を入れて生きていこうと思います



ここまで読んで下さいまして、ありがとうございました